お金は増え続けているのに、資産はなぜ上がらなかったのか
2003年4月からの10年間、日本のマネーストックは24.7%増えたのに消費者物価は1.3%下がりました。長期の方向は同じでも10年単位ではずれ、どの資産が先行するかは金利局面が決めています。
お金が増えれば資産は必ず上がるのか
長期の方向はおおむね同じですが、10年単位では何度もずれています。日本のデータがその最も長い実例です。2003年4月から2013年4月までの10年間で、M2は1.247倍(+24.7%)になりました。同じ期間の消費者物価指数は0.987倍、つまり1.3%下がっています(日本銀行、総務省統計局)。
お金が増えたことと、物価や資産が上がることは、同じ現象ではありません。日本はその差が10年続いた市場です。
金利局面が変わると、先行する資産も入れ替わる
入れ替わります。米国のM2と金価格を三つの局面で並べると、その振れ幅が分かります。
金利局面が変わると、先行する資産も入れ替わる
- 1980-01 → 2000-01
- 米国M2
- ×3.147
- 金価格
- ×0.421
- 当時の金利局面
- 1979年8月のボルカー就任以降の引き締め。FF金利は1981年6月に月平均19.10%
- 2008-12 → 2021-12
- 米国M2
- ×2.621
- 金価格
- ×2.194
- 当時の金利局面
- ゼロ金利と量的緩和
- 2021-12 → 2026-07
- 米国M2
- ×1.080
- 金価格
- ×2.464(金は2026-08まで)
- 当時の金利局面
- 利上げ後の高金利
下の表から一部の項目を抜粋しています。日付・単位・定義・注意点は元の表と本文を確認してください。
| 期間 | 米国M2 | 金価格 | 当時の金利局面 |
|---|---|---|---|
| 1980-01 → 2000-01 | ×3.147 | ×0.421 | 1979年8月のボルカー就任以降の引き締め。FF金利は1981年6月に月平均19.10% |
| 2008-12 → 2021-12 | ×2.621 | ×2.194 | ゼロ金利と量的緩和 |
| 2021-12 → 2026-07 | ×1.080 | ×2.464(金は2026-08まで) | 利上げ後の高金利 |
最初の20年では、米国のマネーストックが3倍を超えて増えたにもかかわらず、金は1オンス675ドルから284ドルへ名目57.9%下落しました。同期間の米国CPI2.171倍を差し引くと、実質では約−80.6%です(FRED, FEDFUNDS)。逆に2021年12月以降は、米国M2の増加が8.0%にとどまる一方で、金は1オンス1,790ドルから4,411ドルになりました。
差を作っているのはマネーの量そのものではなく、現金や債券を持ち続けたときの機会コストの高さです。
日本のデータは何を示しているか
局面ごとに答えが違う、ということです。
| 期間 | 日本M2 | 日本CPI |
|---|---|---|
| 2003-04 → 2013-04 | ×1.247 | ×0.987 |
| 2013-04 → 2021-12 | ×1.407 | ×1.059 |
| 2021-12 → 2026-07 | ×1.097 | ×1.141 |
| 2003-04 → 2026-07 | ×1.923 | ×1.193 |
直近の期間だけ、CPIの伸びがM2の伸びを上回っている点が読みどころです。さらに長い物差しでは、CPIは1990年1月から2026年7月までで1.296倍、1970年1月からでは3.778倍です。
同じ期間に円相場も動きました。1ドルは1971年1月の358.02円から2011年10月に76.64円まで円高が進み、そこから2021年12月に113.83円、2026年8月には158.85円です。2011年10月と比べると円は約52%下落しています。
M2とCPIは定義の異なる統計で、基準月・基準年・作成方法をそろえないと比較できません。指数は全体の平均であり、個々の家計の支出変化でも、資産の収益率でもありません。売買手数料・税金・保有コストはここまでの数字に含まれていません。
いま観測できる事実
高金利局面がまだ終わったとは確認できていません。米連邦公開市場委員会は2026年7月29日にフェデラルファンド金利の誘導目標を3.50〜3.75%に据え置き、3名の委員(Hammack、Kashkari、Logan)が利上げを主張して反対票を投じました(FOMC)。
これは議事に残る事実であって、次回会合の予想ではありません。読み取れるのは、現金にも金利がつく環境が続いているという一点です。
それでも早く買ったほうが得なのか
資金の出どころによります。手元資金で少しずつ買う場合と、借り入れて買う場合では、損益分岐点が違います。借りて買うなら、その金利がそのまま超えるべき水準になります。
比較するときは基準月をそろえ、為替の変動と指数の変動を分けて読んでください。同じ金額でも、CPI比率で換算した答えとM2比率で換算した答えは、もともと一致しません。
過去の局面が示すのは幅であって、次の局面の方向ではありません。まず自分の金額と自分の期間で一度計算し、どの基準が自分の問いに合うかを確かめてください。
よくある質問
マネーストックが増えれば物価や資産は必ず上がりますか。
必ずではありません。日本では2003年4月から2013年4月までの10年間にM2が1.247倍になる一方、CPIは0.987倍と下落しました。
日本の物価は長期でどれくらい上がりましたか。
1990年1月から2026年7月までのCPIは1.296倍、1970年1月から2026年7月までは3.778倍です。直近では2021年12月から2026年7月までにCPIが1.141倍となり、同期間のM2の1.097倍を上回っています。
円安は資産の見え方をどう変えますか。
円相場は2011年10月の1ドル76.64円から2026年8月の158.85円へ推移し、円は約52%下落しました。同じ資産でも円建てとドル建てで結論が変わるため、通貨をそろえて比較する必要があります。
この記事の数字は予測ですか。
いいえ。すべて基準月を明示した過去の観測値であり、将来の見通しでも売買の推奨でもありません。