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円キャリートレードとは? 日本から見た仕組みと、長期金利3%時代の巻き戻しリスク

円キャリートレードは低金利の円で資金を調達し、高金利の外貨資産で運用する取引です。海外投資家だけでなく、日本の家計・年金・保険会社の海外投資も円を売る同じ方向の流れです。2024年8月5日の日経平均−12.40%、2026年の日銀利上げと約27兆円の介入から、日本側のリスクを整理します。

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円キャリートレードは「海外のヘッジファンドが円を借りる話」として語られがちです。しかし日本から見ると、家計の投資信託も年金も保険会社も、円を売って外貨資産を持っています。日本の長期金利が3%に乗ったいま、その流れが逆回転すると何が起きるのかを整理します。

円キャリートレードとは何か

金利の低い円で資金を調達し、金利の高い通貨の資産で運用する取引です。仕組みは4段階です。

図で見る

円キャリートレードとは何か

  1. 1. 調達
    何をするか
    低い金利で円を借りる(または手元の円を使う)
    利益・損失の源
    円の金利が低いほど有利
  2. 2. 両替
    何をするか
    円を売って米ドルなどに替える
    利益・損失の源
    この段階で円安圧力
  3. 3. 運用
    何をするか
    米国債や株式など高金利・高収益の資産を持つ
    利益・損失の源
    金利差・値上がり益
  4. 4. 返済
    何をするか
    外貨を円に戻して返す
    利益・損失の源
    円高なら為替差損で利益が消える

下の表から一部の項目を抜粋しています。日付・単位・定義・注意点は元の表と本文を確認してください。

出典 ↓

段階何をするか利益・損失の源
1. 調達低い金利で円を借りる(または手元の円を使う)円の金利が低いほど有利
2. 両替円を売って米ドルなどに替えるこの段階で円安圧力
3. 運用米国債や株式など高金利・高収益の資産を持つ金利差・値上がり益
4. 返済外貨を円に戻して返す円高なら為替差損で利益が消える

日本の居住者の海外投資は、1の「借りる」がない点で狭い意味のキャリー取引とは違います。ただ、為替ヘッジをしない外貨資産は、2から4と同じく「円安で得、円高で損」の位置にあります。急な円高で海外勢が手じまいを急ぐとき、日本の投資家の外貨資産も同時に目減りします。

どれくらいの規模か

海外側と日本側で、測っているものが違います。

指標値時点
銀行の、日本国外の非銀行向け円建て債権(BIS)約8,800億ドル(約133兆円、2021年末は110兆円)2024年3月末
うち円建て貸出(BIS)約2,710億ドル(約41兆円、2021年6月末は25兆円)2024年3月末
円が絡む為替スワップ・先渡しの想定元本(BIS)14.2兆ドル2023年末
日本の対外純資産561.75兆円2025年末
日本の対外証券投資残高768.65兆円2025年末
GPIFの外国債券+外国株式約159.94兆円(49.93%)2026年6月末

海外側の数字はBIS(2024年9月)の集計で、何を数えるかによって大きく変わります。BISは、デリバティブを使う取引は借り入れを伴わないため統計で追いにくいとしています。日本側は財務省の対外資産負債残高とGPIFの四半期報告です。GPIFは為替ヘッジ付きの外国債券を国内債券に分類しているため、「外国債券」「外国株式」は為替変動をそのまま受ける資産です。

日本の居住者の中で目立つのは投資信託です。財務省の投資家部門別統計で、投資信託委託会社等による外国株式・投資ファンド持分の取得超を年ごとに合計しました。

年投資信託委託会社等:外国株式等の取得超生命保険会社:外国中長期債
2022年+3兆8,966億円−11兆4,640億円
2023年+3兆5,039億円−2兆8,479億円
2024年+10兆494億円−1兆6,777億円
2025年+8兆6,312億円−6,726億円
2026年1〜9月+9兆9,667億円−1兆7,570億円

新しいNISAが始まった2024年から、投資信託経由の外国株式の買いは2023年の約3.5兆円から年9〜10兆円規模に増えました。2026年は9か月で2025年1年分を上回っています。この統計はNISA分だけを切り出したものではありませんが、家計の資金が投資信託を通じて海外へ向かう流れと重なります。反対に生命保険会社は2022年以降、外国の中長期債を毎年売り越しています。この統計は報告機関ベースで、プラスは取得超、マイナスは処分超です。

2024年8月5日に何が起きたか

日銀の利上げの後、円高と株安が一気に重なりました。

項目値
日銀の政策金利2024年7月31日に0.25%へ引き上げ
ドル円7月10日の161.73円 → 8月5日の143.95円(−11.0%)
米日2年金利差7月10日の4.28ポイント → 8月5日の3.63ポイント
日経平均(8月5日)31,458.42円、−4,451.28円(−12.40%)
VIX指数8月2日23.39 → 8月5日終値38.57(取引開始前に一時約66)
−12.40%

2024年8月5日の日経平均の下落率。下落幅4,451.28円は過去最大、下落率は1987年10月20日に次ぐ2番目(日経平均プロフィル)

日経平均の記録では、この日の下落幅は過去最大です。BISは、米国の弱い経済指標への最初の反応を、株式と為替のレバレッジ取引の巻き戻しが増幅したと分析しています。日銀の利上げはその直前でした。BISによるとS&P500は8月9日までに下げ幅を取り戻しましたが、日本株は円高と株安を同時に受けました。

2026年の日銀利上げで、なぜ円はまだ弱いのか

日本の金利は上がっていますが、米国の金利も上がり、差がむしろ広がったためです。

日銀の決定日政策金利その日の10年国債利回り(財務省)
2024年3月19日マイナス金利を解除0.744%
2024年7月31日0.25%1.070%
2025年1月24日0.5%1.238%
2025年12月19日0.75%2.021%
2026年6月16日1.0%2.655%
2026年9月18日1.25%(7対2、1995年以来)2.981%

日本銀行は2年半で政策金利を1.25%まで上げました。それでも米日の2年金利差は、2026年1月5日の2.27ポイントから7月29日に2.73ポイント、10月6日に2.86ポイントへ広がっています。円を借りて米ドルで運用する取引の金利差は、縮むどころか厚くなりました。

ドル円は7月29日に163.86円とこの年の円安のピークを付けました。政府は4月30日〜5月6日に11兆7,349億円、7月30日〜8月26日に15兆3,993億円、合計約27.13兆円の円買い介入を行っています。円買い介入は外貨準備のドルを売って行うもので、米国財務省TICの日本の米国債保有は2月の1兆2,393億ドルから7月の1兆1,039億ドルへ減りました。ただしTICの数字には民間の保有も含まれ、内訳は分かりません。

巻き戻しはどれくらいの速さで来るか

2026年にも、1週間ほどで4%程度の円高が2回ありました。

期間ドル円変化
2024年7月10日 → 8月5日161.73円 → 143.95円−11.0%
2026年7月29日 → 8月3日163.86円 → 156.96円−4.2%
2026年9月1日 → 9月9日160.03円 → 153.50円−4.1%

ドル円はFRED(DEXJPUS)のニューヨーク正午レートです。日本の投資家にとっては、円高の分だけ外貨資産の円換算額が減ります。たとえばGPIFの外国債券・外国株式約159.94兆円に、外貨建ての価格が変わらないまま10%の円高が起きたと仮定すると、円換算で約16兆円の減少になります(単純な試算)。NISAで外国株式の投資信託を持つ家計も、同じ向きの影響を受けます。

外貨資産の伸びを円で確かめる — 資産の伸びを物価やマネーの伸びと比べると、円安・円高がどれだけ効いていたかが見えてきます。

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この数字の限界

キャリー取引の規模に公式な統計はなく、BISの数字は推計で定義によって大きく変わります。投資信託委託会社等の取得超はNISA以外の資金も含み、財務省の報告機関ベースの数字です。生命保険会社の数字は売り越し額で、保有残高ではありません。GPIFの試算は外貨建て価格が変わらない単純な仮定によるものです。2024年8月の市場の動きをキャリー取引の巻き戻しだけで説明することはできず、BISも米国の景気指標など複数の要因を挙げています。

よくある質問

円キャリートレードとは何ですか。

金利の低い円で資金を借りるか円を売り、その資金を外貨に替えて金利の高い資産で運用する取引です。金利差が利益になりますが、円高になると為替差損で利益が消えます。急な円高で一斉に手じまいが起きることを「巻き戻し」と呼びます。

日本の個人や年金も円キャリーをしているのですか。

借金をして運用する狭い意味のキャリー取引とは別ですが、為替ヘッジをせずに外貨資産を持つ点で、円安で得をし円高で損をする同じ向きのリスクを抱えています。GPIFの外国債券と外国株式は2026年6月末で計約160兆円、投資信託委託会社等の外国株式等の取得超は2026年1〜9月で約9.97兆円です。

2024年8月5日に何が起きましたか。

日銀が7月31日に政策金利を0.25%に上げた後に円高が急進し、日経平均は8月5日に12.40%、4,451.28円下落しました。下落幅は過去最大、下落率は1987年10月20日に次ぐ2番目です。ドル円は7月10日の161.73円から8月5日の143.95円へ11.0%円高になりました。

日銀が利上げしているのに、なぜ円は弱いのですか。

米国も金利を上げており、米日の2年金利差は2026年1月5日の2.27ポイントから10月6日の2.86ポイントへ広がりました。日本の金利が上がっても、差はむしろ開いています。政府は2026年に計約27.13兆円の円買い介入を行っています。

出典

  1. BIS Quarterly Review(2024年9月)— The market turbulence and carry trade unwind of August 2024 ↗
  2. BIS Bulletin No 90 — The market turbulence and carry trade unwind of August 2024 ↗
  3. 日本経済新聞社 日経平均プロフィル — 記録(騰落) ↗
  4. 日本銀行 金融政策決定会合の決定内容(2026年) ↗
  5. 財務省 外国為替平衡操作の実施状況 ↗
  6. 財務省 対外及び対内証券売買契約等の状況(投資家部門別、月次) ↗
  7. 財務省 令和7年末現在 本邦対外資産負債残高(増減要因) ↗
  8. GPIF 2026年度第1四半期 運用状況 ↗
  9. 米国財務省 TIC — Major Foreign Holders of Treasury Securities ↗
  10. FRED — Japanese Yen to U.S. Dollar Spot Exchange Rate(DEXJPUS) ↗
  11. 財務省 国債金利情報 ↗

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